日経サイエンス  2023年3月号

子育て支援の神経科学

D. サスキンド(シカゴ大学) L.デンワース(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

子ども時代の最初の数年間はチャンスに満ちている。子どもの脳が体験を最も柔軟に受け入れ,可塑性に富んでいるのが,この最初の重要な時期だ。脳の成長の85%は生まれてから3歳までの間に起こる。この時期には毎秒100万個の神経接続が形成されている。

20年に及ぶ子どもの発達研究から,幼児が最高の成長のスタートを切るには「養育者との親密な関わり」と「有害なストレスからの保護」の2つが何よりも大切であることがわかった。さらに,早期の幼児体験が脳に及ぼす神経生理学的な影響を探った最近5年間の新たな研究が,この2 つの目標を達成する方法をはっきりと示している。

しかし実際には,科学的に見て子どもに必要な支援と,われわれの社会が提供している支援には隔たりがある。米国は産後の育児休業制度を義務付けていない唯一の先進国である。さらに米国議会は2021年末,パンデミック下で実施してきた児童税額控除の拡充を延長しないことを決定した。しかも米国人の約半分が保育施設と人材がまったく不足している“保育砂漠”地域に住んでいるほか,既存の保育サービスのうち質が高いものは10%に満たないと考えられている。

脳の発達に関する科学は,こうした問題に取り組む議論でほとんど扱われることがない。だがこれからは議論の中心に据えるべきだ。なぜなら,科学の最新知見は子どもの将来を大きく改善するために国や地方が何をすべきかを明確に示しているからだ。

続きは日経サイエンス2023年3月号にて

著者

Dana Suskind / Lydia Denworth

サスキンドは幼児学習研究者。シカゴ大学メディカルセンターの小児人工内耳インプラント外科医で,「早期学習と公衆衛生のためのTMWセンター」の共同ディレクター。共著書に「Parent Nation: Unlocking Every Child’s Potential, Fulfilling Society’s Promise」(Dutton,2022年)がある。デンワースはニューヨーク州ブルックリンに拠点を置くサイエンスライター。SCIENTIFIC AMERICAN誌の寄稿編集者で,「吃音症はなぜ起こるのか」(日経サイエンス2022年1月号)を執筆。サスキンドと上記の「Parent Nation」を共著した。

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貧困から子供の脳を救う」,K. G. ノーブル,日経サイエンス2017年7月号。

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