
世界遺産,南米ペルーの「ナスカの地上絵」が新たに168点,去る12月に発表された。動物などを描いた具象的な地上絵は約400点が確認されているが,今回分を含めてこのうちの約9割,358点を見つけ出したのが,ペルー政府の許可を得て地上絵の現地調査に取り組んでいる,世界で唯一の研究組織である山形大学のグループだ。一般の人がイメージする地上絵は遊覧飛行機などから眺めなければ視野に収まらないほど巨大な図像で,それらは住む人もいない広大で平坦なナスカ台地に一筆書きで描いたような線画だった。一方,山形大学の坂井正人教授らのグループが発見した地上絵のほとんどは,かなりタイプが異なる。まずサイズ。大きい図像でも50mに満たず,数mサイズのものも多い。だから少し離れた場所に立って見れば,容易に視野に収まる。またそれらは線画ではなく,地面の明るい領域と暗い領域が面的に配置されて1つの図像を成している。
ただ,こうした小型の面的な地上絵は,大型の線画の地上絵に比べ,その絵柄が長年の風雪によってぼやけて判別が難しくなる。そのため,これまでは一般の人はもちろん,専門の考古学者にも気付かれずにいた。坂井教授らは衛星画像や航空写真に加えて,航空機からレーザーを照射して地面の凹凸の状況を調べたり,ドローンによる超低空からの観察などによって,地上絵が存在しそうな場所を洗い出した後,実際に現地を踏査することで,その存在を明らかにした。
続きは日経サイエンス2023年3月号にて
協力:坂井正人(さかい・まさと)
山形大学学術研究院教授(人文社会科学部主担当)。同大学ナスカ研究所考古人類学部門長を兼務する。専門は文化人類学,アンデス考古学。