
去る7月のある日の深夜,マサチューセッツ工科大学の天文学者ローハン・ナイドゥはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の初期観測画像を自作のプログラムで調べていてあるものに目が留まった。プログラムが選び出した天体が,説明がつかないほど質量が大きく,ビッグバンのわずか3億年後という,これまでに観測されたどの銀河よりも古い時代のものであることに気づいたのだ。数日後,ナイドゥらはこの最古の銀河の候補天体「GLASS-z13」に関する論文を発表した。
ビッグバンからわずか数億年後の時代である黎明期はほとんど調べられていないが,初代星や初代銀河が誕生したとされる時代だ。このプロセスが実際にどのように進んだかは,暗黒物質と暗黒エネルギーの影響から,星の光とガス,ダストの間に生じるフィードバックまで,よくわかっていない物理現象によって決まる。ウェッブ望遠鏡で黎明期の銀河を垣間見ることで,そうした根底にある現象に関する知識を検証できる。
だが,そうした観測には時間がかかると思われていた。初代銀河はとても小さく暗いので,ウェッブ望遠鏡の試験観測ではこれまで以上に遠くにある興味深い候補天体が少数見つかるのがせいぜいだと考えられていたのだ。だが,実際にはそうではなかった。ウェッブ望遠鏡による遠方宇宙の最初の画像が公表されるやいなや,ナイドゥら天文学者たちはそうした画像の中から時代やサイズ,光度の点で,どんな予想も超えた銀河を数多く見つけ始めたのだ。
驚くほど成熟した「初期」銀河が発見されてから数週から数カ月の間,理論家や観測家は先を争ってそうした銀河を説明しようとしてきた。異常に大きくて明るい初期銀河は実は幻で,初期観測結果の解析に不備があったのではないか。本物だった場合も,標準的な宇宙モデルで何とか説明がつくのではないか。あるいは,もしかしたらの話だが,これらの観測結果は最も大胆な理論で考えられていた以上に宇宙が奇妙で複雑であることを示す最初の兆候ではなかろうか。
その場合,原初の混沌から現在見られる秩序だった宇宙がどのように生まれたのかに関する私たちの理解そのものが問い直されることになる。ウェッブ望遠鏡が稼働早々に明らかにした新事実は宇宙史の最初の数章を書き換える可能性があるのだ。
続きは日経サイエンス2023年2月号にて
著者
Jonathan O’Callaghan
フリージャーナリスト。商業宇宙飛行や宇宙探査,天体物理学に関する記事を執筆している。
原題名
Breaking Cosmology(SCIENTIFIC AMERICAN December 2022)
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ラムダCDMモデル/ジェームズ・ウェッブ望遠鏡/GLASS-z13