日経サイエンス  2023年1月号

鳴く動物 話すヒト

鳴き声の進化 それは虫の声から始まった

M. B. ハビブ(ロサンゼルス自然史博物館)

地球上のほぼすべての生息地が動物の音でにぎやかなのは当然だと思える。海ではクジラのしみじみとした歌声,森では鳥やカエル,昆虫による大合唱,世界各地の都市では人間と人工物が立てる騒音が聞こえる。だが地球史の大半の期間,音を立てるのは風と雨,波だけだった。

私は古生物学者として絶滅動物が生きていたときの様子を,つまりどのように動き,何を食べ,どんな音を立てていたのかを理解しようとしている。また,展覧会やテレビ,映画,ゲームに使われるアニメーションや生物デザインのコンサルタントを務めている。そこでよく受ける相談の1つが,動物が立てる音に関するものだ。学術研究のためにはるか昔に絶滅した翼竜を再現するのであれ,超大作映画のために生物をデザインするのであれ,音は過去の世界や想像上の世界に生気を吹き込むのに最も重要な要素だ。

動物の音の進化に関する最近の知見から,現代の音風景(サウンドスケープ)がどのように作り上げられたのかに関する新たな理解が得られた。化石から,発音器官と聴覚器官の主なタイプが無脊椎動物と脊椎動物の祖先でそれぞれいつ出現したかが明らかになった。また,優れた模型を作ることによって古生物の音そのものを再現した研究例もある。詳細の多くはまだわかっていないが,地球がにぎやかになり始めた時代の様子が浮かび上がってきた。

続きは日経サイエンス2023年1月号にて

著者

Michael B. Habib

ロサンゼルス自然史博物館とロサンゼルス動物園協会の古生物学者で生体力学研究者。翼竜と鳥類,羽毛恐竜の体の構造と運動を研究している。

原題名

Dawn of the Din(SCIENTIFIC AMERICAN January 2022)

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発音膜喉頭鳴管反響定位