
私たちはおしゃべりだ。学校や職場の休み時間,カフェ,電車の中──。人間の集まる場所に出かけると,そこら中から誰かの会話が聞こえてくる。
しかし,ヒトの「話す」という動作をそのまま真似できる動物はほとんどいない。たとえば,チンパンジーは訓練すればジェスチャーでヒトと簡単なコミュニケーションを取ることができる。しかし彼らは決してヒトの言葉を話さない。飼い主の言葉を聞き分けられるイヌだって,ある朝突然「ごはんをください」と話しかけてきたりはしない。
ヒトは音声,文字,手話など,様々な伝達形式で言葉を操る動物だ。そのなかで音声言語はひときわ大きな地位を占めており,ヒトが言葉を話せるようになった理由を探ることは,言語の起源という大きな謎を解明するための第一歩となる。
なぜヒトだけが言葉を話すのか。多くの科学者がこれまで,ヒトとそれ以外の動物で脳に違いがあるのだろうと考え,発話を制御する脳領域の研究に精を出してきた。しかし2022年8月,脳ではなくのどに着目した興味深い研究成果がScience誌に掲載された。ヒトが複雑な言葉を話せるのは,のどの構造が単純だからだという。一体どういう意味なのか,論文の筆頭著者である京都大学准教授の西村剛さんに詳しい話を伺うことにした。
続きは日経サイエンス2023年1月号にて