
サンショウウオの仲間には不思議がいっぱいだ。両生類なのに,彼らの中には変態して陸生に切り替わらない種がいる。四肢が切断されても元に戻る再生能力を備えている。米国で暮らすサンショウウオの仲間,ルイスウォータードッグ(Necturuslewisi)に至っては,細胞の大きさがトカゲや鳥,哺乳類と比べて最大で300倍もある。虫眼鏡があれば,透明な皮膚の毛細血管の中を素早く流れる血液細胞を1個ずつ観察することだって可能だ。
サンショウウオの仲間はなぜ,このような常識離れした特徴をいくつも備えているのだろうか。
実は,サンショウウオの仲間はゲノムサイズが著しく大きい。トランスポゾンと呼ばれるゲノムに“ 寄生する”DNAが大量に増殖した結果だ。近年になって,「ゲノムが巨大である」ということそれ自体が,サンショウウオの体の形を大きく変える要因になっていることがわかってきた。
サンショウウオは巨大ゲノムという大きな重荷を抱えながらも,絶滅せずに今日まで生きている。その秘訣は彼らの「のんびりさ」にあるかもしれない。彼らの粘り強い繁栄は,私たちの進化に関する考え方,特に「適者生存」という見方が道徳的な価値観に大きく引っ張られていることを気付かせてくれる。
「勤勉であれ,若者よ。高い能力を発揮できるように心身を磨け。そうすればいつの日か成功するだろう」。私たちはそう考えがちだ。俊敏で強靱な肉体を持つ者こそ生き残ると思い込んでいる。しかしサンショウウオは,のんびりダラダラと過ごすことで成功した。進化のゲームに勝つ裏技を見つけたのだ。
続きは日経サイエンス2022年12月号にて
著者
Douglas Fox
カルフォルニアを拠点に,生物学や地質学,気候学について記事を書いているサイエンスライター。本誌には二酸化炭素を硬い鉱物に変換する試みを紹介する記事「太古のマントル岩石にCO₂封印 中東オマーンで実験開始」(日経サイエンス2022年1月号)などを執筆。
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「失われた手足を再生する」,K. ムネオカ/M. ハン/D. M. ガーディナー,日経サイエンス2008年7月号。
原題名
Genetically Bloated Beasts(SCIENTIFIC AMERICAN February 2022)
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サンショウウオ/トランスポゾン/ルイスウォータードッグ/ハイギョ