日経サイエンス  2022年11月号

nippon天文遺産 第39回

明治・大正の船乗りを育んだ商船学校天体観測所

中島林彦(編集部) 協力:渡部潤一(国立天文台) 吉岡 諭(東京海洋大学)

東京下町,隅田川河口に近い越中島に,現存する日本最古の天体観測ドームがある。東京海洋大学の源流の1つ,「商船学校」に明治36年(1903年)に建てられた天体観測所だ。大海原では天体観測から現在地の緯度経度を求めていたため,遠洋航海にとって天文学は必須で,「航海天文学」として発展した。明治・大正の船乗りを育んだ煉瓦造りの古風な建物は関東大震災と太平洋戦争の東京空襲を乗り越え,令和の世まで生き残った。国の登録有形文化財と日本天文学会の日本天文遺産の認定を受けている。(文中敬称略)

明治時代初め,黎明期の航海天文学は2つの機関が担っていた。海軍水路寮(後の水路部)と,政府の命を受けて郵便汽船三菱会社(三菱財閥の母体,日本郵船の前身)が設立した三菱商船学校だ。水路寮は水路権頭(ごんのかみ)の柳楢悦(やなぎ・ならよし),三菱商船学校は校長の中村六三郎が中心的役割を果たした。2人は江戸幕府が幕末に開設した長崎海軍伝習所の出身。伝習所ではオランダ海軍士官が,日本で初めて西洋の機器を用いた天体観測を実地で教えた。


続き日経サイエンス2022年11月号にて

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