日経サイエンス  2022年11月号

民間月探査は宇宙ビジネスを開くか

R. ボイル(フリージャーナリスト)

2021年12月のある日,月ロボット開発の新興企業アストロボティック・テクノロジーでプロジェクトマネージャーを務める25歳のジョン・ウォーカー・ムースブラッガーは,自社のクリーンルームの前に座り,自分が生まれるよりも前に作られた機器が月着陸機に取り付けられるのを見守っていた。着陸機の名は「ペレグリン」。浴槽ほどの大きさで,4本の脚がある。今年中の打ち上げを予定しているペレグリンは,民間企業が何年もの準備を経て月へ送り出そうとしている多数の宇宙機の1つだ。

今後4~5カ月の間に米国の宇宙機が半世紀ぶりに月に降り立つ。ただし,宇宙機に人は搭乗せず(少なくとも今のところは),それを製造したのは政府機関ではない。今回の月への船団は民間の宇宙機で構成され,科学実験機器など,NASAをはじめとする顧客の貨物を有料で運ぶ。ペレグリンはユナイテッド・ローンチ・アライアンス社の新型ロケット,ヴァルカン・セントールによって2022年末までに打ち上げられる予定だ。アストロボティックの競合新興企業インテュイティブ・マシーンズも,月着陸機「ノヴァC」をスペースX社のファルコン9ロケットで年内に打ち上げることになっている。今後6年間にさらに10社あまりが続き,磁力計や将来の月面基地に必要な物資から火葬済みの遺骨に至るまで,各種貨物を輸送する予定だ。

こうした動きは宇宙ビジネスにおける新たな章の幕開けといえるだろう。だが,月経済を牽引するとみられる水などの採掘で採算が取れるようになるかは不確実で,商用の月着陸機に持続的な需要があるかどうかは不明だ。

続き日経サイエンス2022年11月号にて

著者

Rebecca Boyle

コロラド州在住の受賞歴のあるフリージャーナリスト。「Walking with the Moon: Uncovering the Secrets It Holds to Our Past and Our Future」(ランダムハウス)を近日出版予定。

関連記事
特集「アポロから半世紀 人類,月へ」,日経サイエンス2019年8月号。

原題名

The New Race to the Moon(SCIENTIFIC AMERICAN August 2022)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

月探査宇宙ビジネスアストロボティック商業軌道輸送サービス 計画グー グル・ルナXプライズ商業月面輸送サービス計画