
約40億年前の太古まで遡り地球の生い立ちを解き明かす地球史解読の研究から,日本に知られざる資源があったことが浮かび上がった。南鳥島沖の海底には,地球を覆う巨大な岩板(プレート)が生まれている中央海嶺における熱水活動や,過去の気候変動に伴う海洋生態系の変化によって,ハイテク製品に不可欠なレアアースが高濃度で堆積している。40億年の地球史の中では劇的な環境の変動が何度も起きており,その解明は,現在を生きる私たちに様々な知恵と恩恵をもたらしている。
2013年1月,私たちは海洋研究開発機構(JAMSTEC)と共同で,日本最東端の南鳥島周辺の海底調査を開始した。30年以上前に南鳥島周辺で採取された泥の試料の分析から,日本の排他的経済水域内にもレアアース泥が存在することがわかったからだ。調査航海ではレアアース泥の分布を把握するために,長さ15mの金属管を海底に突き刺して深海泥の柱状試料を採取した。
得られた試料の分析結果は,想像すらしていなかったものだった。南鳥島周辺の泥が,約7000ppmという極めて高いレアアース濃度を示したのだ。当時,太平洋の他の海域で得られていた最高値は2230ppmで,南鳥島レアアース泥の値はその3倍を優に超える。
この超高濃度レアアース泥を顕微鏡で観察すると,魚類の歯や骨片に由来するアパタイトが大量に含まれていることが確認できた。取り出した1mmに満たない魚の歯や骨片を分析した結果,レアアース濃度は実に2万ppm,つまり2%を超えていた。
続きは日経サイエンス2022年11月号にて
著者
加藤泰浩(かとう・やすひろ)
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授。理学博士。山口大学理学部助手,ハーバード大学とケンブリッジ大学の在外研究員,東京大学大学院准教授などを経て2012年より現職。千葉工業大学次世代海洋資源研究センター所長を兼務。専門は地球資源学・環境学。
関連記事
「レアアースの泥で日本の未来を拓く」,中島林彦,日経サイエンス2013年11月号「Front Runner挑む」。加藤泰浩氏を紹介している。