
エルサレムではこれまで150年以上も発掘調査が精力的に続けられてきたが,今でも多くの謎が残されている。エルサレムの5000年間の歴史の中で,ユダヤ民族の祖先が初めて現れたときから,古代ペルシア人や古代ギリシャ人,さらにアラブ人が支配していたころまでの考古学的資料が,丸ごと欠落していたからだ。
このような空白が生じた理由は,考古学者たちが長らくヘブライ語聖書(ユダヤ教の聖典。キリスト教の旧約聖書とほぼ同じ)に執着し,現代的な手法で過去を調べようとしてこなかったことにある。放射性炭素年代測定のような標準的な技術さえ,使われるようになったのはごく最近だ。研究者たちは聖書に記された時代の遺物を見つけるのに熱心なあまり,市民の日常を知るためにごみの山を根気強く調べるような仕事には消極的だった。
今ではエルサレムの研究者たちも,新しい分析法と目標に基づいて,世界の考古学者たちに追いつこうとしている。とはいえエルサレムは3つの宗教の聖地であり,2つの民族間で紛争が起きている場所だ。そこでは21世紀の考古学にも,19世紀のころと同様に宗教と政治が深く関わり,学問に暗い影を落としている。
キリスト教徒とユダヤ教徒が「詩篇」,イスラム教徒が「ザブール」と呼ぶ聖書の一書によれば,「まことは地から生えいで」る。しかし最新の分析手法によって判明したエルサレムの歴史に関する真実は,最初に発掘が始まったときと同様,厳しい現実のために複雑化している。エルサレムは研究者にとって類例のない困難な場所だ。
続きは2022年10月号にて
著者
Andrew Lawler
ジャーナリスト。Science誌などに寄稿。Archaeology誌の寄稿編集者を務める。近著に「Under Jerusalem: The Buried History of the World's Most Contested City」(Doubleday, 2021)がある。 詳細はwww.andrewlawler.com
原題名
The New Archaeology of Jerusalem(SCIENTIFIC AMERICAN April 2022)
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