日経サイエンス  2022年9月号

数楽実験室 マテーマティケー 第7回

平均を考える

図と解説:矢崎成俊(明治大学)

ティーカップに入ったルイボスティーを口にしながら,間瀬真知香(ませ・まちか)は今日の道具を並べていた。すると,何戸家夏太(なんとか・なつた)と奈留沙(なるさ)が勢いよく入ってきた。
「夏太くん,奈留沙さん,おはようございます。今日は『平均』で遊びましょう」

◎でこぼこをなだらかにする
「期末テストの平均点が10点アップ,なんていう塾の広告がよくありますね」と,真知香は話を始めた。
「例えば数学50点,英語70点のとき,平均点は60点です。10点アップするには,それぞれ何点とればよいでしょう」
「数学60点,英語80点です」と奈留沙が言うと,
「数学40点,英語100点でも平均70点です」と夏太。
「はい,どちらも正しいです。2科目が同じように上がることもあれば,一方が下がって他方が上がることもあります。平均を取ると,そういう数値の間の違いが見えなくなります」
真知香はそう言って,こんな図を示した。

「見覚えがあるな,と思った人もいるでしょう。このグラフは,2021年4月から1年間の新型コロナの新規感染者数を示しています。青い棒が日ごとの数値で,検査件数が曜日によって異なるのででこぼこしています。そこで,例えば5日ずつの平均値を取ると,オレンジの曲線になります」
オレンジの線は,4月22日から26日までの平均値を26日に記録し,23日から27日までの平均値を27日に記録し……という具合に,5日ずつ移動させながら平均を取って描いたものだ,と真知香は説明した。
「こんなふうに計算したものを『移動平均』と呼びます。平均を取る日数が長くなるほどグラフは滑らかになります」
「オレンジの線を見ると,感染者がどんなふうに増減したかよくわかりますね」と奈留沙が言い,真知香は頷いた。
「そうなのです。局所的な要因を除いて全体の傾向が見やすくなるのが,移動平均の利点です」

◎鳩の巣原理
 「さて,違う話に移りましょう。人間が7人,椅子が6つある状況を想像してください。全員が座ろうとすると,どれかの椅子に2人以上が座らざるをえません」

 「これをヒントに考えてみてください。次の命題は正しいでしょうか」と真知香は尋ねた。


続き日経サイエンス2022年7月号にて

登場人物
何戸家 夏太(なんとか・なつた)高校1年生
何戸家 奈留沙(なんとか・なるさ)夏太の姉。高校2年生
間瀬 真知香(ませ・まちか)フリーの実験数楽者

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