日経サイエンス  2022年9月号

孤立したピューマたちを救え

ハイウェイを跨ぐ長大橋計画

C. ピットマン

生物学者のシキッチ(Jeff Sikich)は2002年からサンタモニカ山脈国立保養地で働いている。ここでの仕事はいろいろで,麻酔銃を持ってくるよう要請を受けて駆けつけたら,そこにいたのは本物のマウンテンライオン(ピューマ)ではなく高さ1m弱の像だったなんてこともあった。だがシキッチが2020年3月に目にしたものは,もっと異様で不吉なものだった。しかしシキッチはさほど驚かなかった。そうならないことを願いつつも,いつか現実になるかもしれないという懸念が「ずっと頭の片隅にあった」と語る。

シキッチは若いオスのマウンテンライオンを捕獲するため,車にひかれて死んだシカを檻に入れて罠をしかけていた。罠にかかったマウンテンライオンを麻酔銃で眠らせてじっくり観察したところ「尾が何か変だった」とシキッチは振り返る。尾の先端が90°に折れ曲がっている。幾何学の教科書の図にあるような直角だ。さらに,そのオスには睾丸(精巣)が1つしかなかった。もう1つの睾丸は,本来の位置にまで降りていなかった(停留精巣という異常)。シキッチはこのマウンテンライオンに発信器付きの首輪を取りつけて,P-81と命名した。この地域で81番目に捕獲されて首輪をつけられたピューマの意だ。

だが遺伝的な異常が見られたのはP-81だけではなかった。その後,シキッチがいつものように自動撮影カメラの映像を確認していると,尻尾の先端が折れ曲がったマウンテンライオンがさらに2匹見つかった。精巣についてはわからなかったが,曲がった尻尾だけでも危惧すべき事態だ。ピューマ(Puma concolor)は一般にクーガーやパンサー,マウンテンライオンとも呼ばれ,複数の亜種が南北アメリカ大陸に生息している。ロサンゼルス近郊にいるこの頂点捕食者の小集団にとって,この異常は不吉な前兆だった。



続きは日経サイエンス2022年9月号にて

著者

Craig Pittman

フロリダを拠点とする環境ライター。著書に「Cat Tale: The Wild, Weird Battle to Save the Florida Panther」(Hanover Square Press,2020年)がある。

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トラ集団を追いかけろ」,K. U. カランス,日経サイエンス2016年10月号。

原題名

The Lions of Los Angeles(SCIENTIFIC AMERICAN September 2021)

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