
「核心になかなか迫れない」。国立遺伝学研究所教授の鐘巻将人は悩んでいた。当時,大阪大学の助教だった鐘巻は,細胞がDNAを複製する仕組みを研究していた。だが,重要なタンパク質ほど解析が難しいというジレンマを抱えていたのだ。
タンパク質の機能を調べるときは通常,動物や培養細胞でタンパク質のもとになる遺伝子を壊して変化を見る。重要な生命現象に関わる「必須遺伝子」を壊した場合,動物や培養細胞は死んでしまう。全遺伝子の1割を超えるが,機能の解析は至難の業だった。
現在でも使われる最も一般的な解析手法の1つがRNA干渉だ。培養細胞で遺伝子の情報を伝えるmRNAを壊して,目的のタンパク質が新たに合成されないようにする。タンパク質の出荷は止まるが,すでにある在庫は残っているため,タンパク質が消えるまで2~3日かかる。「合成を止められた培養細胞は,3日後にはもうヘロヘロの状態だ。タンパク質がなくなった直接的な影響なのか,ストレスによる二次的な影響なのか,判別できなかった」と鐘巻は振り返る。
続きは日経サイエンス2022年9月号にて
協力:鐘巻将人(かねまき・まさと)
国立遺伝学研究所教授。専門は細胞分子工学。植物内のタンパク質分解メカニズムを利用して,ヒト細胞内でタンパク質を素早く取り除く技術の開発に取り組む。