日経サイエンス  2022年8月号

天才のようにまどろめ エジソンに学ぶ半覚醒状態のひらめき

B. ステッカ(サイエンスライター)

エジソン(Thomas Edison)が眠りを嫌ったことはよく知られている。電球の生みの親として万人に知られるこのエネルギッシュな発明家は,1889年の本誌SCIENTIFIC AMERICANに掲載されたインタビュー記事のなかで,一晩に4時間以上眠ったことはないと述べた。睡眠は時間の無駄だ――彼はそう考えていた。

だが一方で,彼はその創造性の発露をうたた寝に頼っていたようだ。昼寝をする際に両手に1個ずつボールを持ち,眠りに入るとボールが床に落ちて目が覚めるようにしたといわれている。そのようにして,うつらうつらしているときに頭に浮かんだ考えのたぐいを,つまりたいていはそれきりになってしまうアイデアを,思い出すことができたのだろう。

現代の睡眠研究に照らすと,エジソンはいいところに気づいていたといえそうだ。最近のScience Advances誌に掲載された研究は,人が「ノンレム睡眠ステージ1(N1)」という浅い眠りに落ち始める段階では意識が半ば残っており,創造性と識見が働く短い期間が存在すると報告している。こうした発見は,うまくすれば睡眠と覚醒の境目をなすぼんやりした状態〔専門用語ではヒプナゴジア(入眠時における半覚醒状態)という〕から秀逸なアイデアをもっとうまく引き出せる可能性があることを意味している。



再録:別冊日経サイエンス255『新版 意識と感覚の脳科学』

著者

Bret Stetka

ニューヨークを拠点に活動するサイエンスライターで,メッドスケープニューロロジー(ウェブMDの一部門)の編集担当役員を務めている。Wired誌,ナショナル・パブリック・ラジオ,Atlantic誌などに寄稿・出演。2005年バージニア大学医学部卒。

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夢が教える発想」,D. バレット,日経サイエンス2013年11月号
明晰夢の効用」,U. フォス,日経サイエンス2013年11月号

原題名

Nap Like a Genius(SCIENTIFIC AMERICAN April 2022)

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