日経サイエンス  2022年8月号

高速電波バースト 浮かび上がる新たな謎

A. マン(サイエンスライター)

2001年にオーストラリアの電波望遠鏡が天の川銀河のはるか先から到来した瞬間的なパルス信号をとらえたとき,誰もそれに気づかなかった。この強烈なフラッシュの記録は5年以上も埋もれたままとなり,ある科学者グループが保存データを精査したことでようやく特定された。高速電波バースト(FRB)と呼ばれる爆発現象だ。これを発見したチームの一員であるウェストバージニア大学の宇宙物理学者ロリマー(Duncan Lorimer)によると,高速電波バーストは数ミリ秒の間に太陽が1カ月間に生み出すのと同じエネルギーを放出する。

現在,1日に全天で少なくとも800回の高速電波バーストが発生していることが知られ,この現象は宇宙物理学分野で最もホットな研究テーマのひとつとなっている。不明な点がまだ多く残っているものの,昨年になって,その正体について明確な姿が見え始めた。「一部の高速電波バーストについては,理解に近づいていると思う」と加トロント大学の宇宙物理学者プルニス(Ziggy Pleunis)はいう。「だが,探求のなかで得られた新発見が新たな疑問を生み出す形になっている」。

高速電波バーストの研究はいま,変曲点にある。新事例が続々と見つかり研究が深まったことで,バースト発生機構に関する理論モデルが絞り込まれた。今後の観測プロジェクトによって可能性はさらに絞られるだろう。一方,高速電波バーストの明るい光が,地球に届くまでに旅してきた銀河間空間の内容物に関する記録を含んでいることがわかった。これを利用すれば,銀河と銀河間物質についての情報が得られる。他の方法では得られない情報だ。 

著者

Adam Mann

天文学と物理学を専門とするジャーナリスト。National Geographic誌やWall Street Journal紙,Wired誌などに執筆している。

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電波のフラッシュ現象 高速電波バーストの正体を追う」,D. ロリマー/M. マクラフリン,日経サイエンス2019年1月号。

原題名

Mysterious Cosmic Detonations(SCIENTIFIC AMERICAN June 2022)

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