日経サイエンス  2022年8月号

特集:量子コンピューター最大の壁「エラー訂正」

最大の難関「エラー訂正」を実行する新手法

Z. ナザリオ(IBM)

物理法則によれば,禁じられていないことは必ず起こる。したがってエラーは避けられない。言語や料理,コミュニケーション,画像処理など,あらゆるところにエラーは存在する。もちろんコンピューターにも。エラーを抑制あるいは訂正することで,社会は動き続けている。DVDは傷がついても再生できる。QRコードは不鮮明だったり破れていたりしても読み取り可能だ。宇宙探査機が撮った画像は,何百万kmもの距離を伝わってきてもちゃんと鮮明だ。エラー訂正は情報技術において最も基本的な概念の1つである。エラーは避けられないかもしれないが,修正もできるのだ。

エラーは不可避という法則は,量子コンピューターにも当てはまる。最近登場したこのマシンは,基本的な物理法則を利用することで,古典コンピューターには手に負えない問題を解く。科学やビジネスに与える影響は非常に大きい。しかしその威力には著しい脆弱性が伴っている。量子コンピューターに生じる計算エラーは古典コンピューターでは知られていない種類のもので,通常のエラー訂正技術では対応できない。

私は現在,物理学者としてIBMで量子コンピューティングの研究に携わっているが,最初からこの分野を研究していたわけではない。当初は凝縮系物理学の理論が専門で,超電導など物質の量子力学的挙動を調べていた。当時はそれが私を量子コンピューティングに結びつけることになるとは思ってもいなかった。つながりができたのは,私が一時期,研究を中断して米国務省で科学政策の仕事に就き,その後,国防高等研究計画局(DARPA)と情報高等研究開発活動(IARPA)で働いていたときだ。そこで私は,自然界の基本原理を利用して新技術を開発する方法を探索した。


続きは日経サイエンス2022年8月号にて

著者

Zaira Nazario

ニューヨーク州ヨークタウンハイツにあるIBMワトソン研究センターで量子力学の理論を研究している。

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原題名

Errors in the Machine(SCIENTIFIC AMERICAN May 2022)

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