
飢えに苦しむ人々を救うため,今取り組むべきことは何だろうか。農作物の品種改良? 高効率の化学肥料? 国際的な援助? 残念ながら,いずれも根本的な解決策にはならない。
過去10年間の食料生産量はおおむね需要を上回っているが,近年のパンデミックで世界的・地域的不平等が悪化したため,現在の飢餓のレベルは2010年より悪化した。食料が増えるとともに飢餓も増えたのだ。
人々が餓えているのは食料が足りないからではなく,食料を手に入れる力がないからだ。
世界の食料生産と消費の仕組みは,もともと植民地主義の下で確立された。西洋人が好むサトウキビやその他の熱帯の作物を供給するため,一方的な土地と労働力の収奪が行われた。こうした食料搾取システムは,植民地主義とともに消えるどころか,世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった国際金融機関による融資の付帯条件のため,さらに強力になった。
植民地から独立した直後のアフリカは食料の純輸出地域で,1966 ~ 1970年には年間130万トンを域外へ輸出していた。しかし1970年代の石油危機でアフリカ各国政府は世界銀行とIMFからさらに借金をせざるをえなくなった。アフリカ諸国は返済にあてるドルを稼ぐため植民地時代の作物の輸出に専念するよう指導された。
最も肥沃な土地を自分たちの食料ではなく輸出用の換金作物の栽培に当てたことで,アフリカは1990年代には食料の1/4を輸入に頼るようになる。2016~2018年にはアフリカは食料の85%を大陸の外から輸入するようになってしまった。
アグロエコロジーは,世界中の最も貧しい農民をこうした支配構造から解放する新たな農業のあり方だ。そこでは農民が主体的に実験を繰り返して土地にあった農法を生み出し,収穫量を高めることにこだわらず,自分たちの地域社会の平等性や豊かさを高めることを目標にしている。日本の「里山」や「小農(小規模農業)」とも親和性の高い概念だ。
アフリカ南東部の内陸国・マラウイで動き始めた「土壌・食料・健康なコミュニティー(SFHC;Soils, Food and Healthy Communities)」イニシアチブによるアグロエコロジーの取り組みを,ルポで紹介する。
再録:別冊日経サイエンス260『新版 性とジェンダー』
再録:別冊日経サイエンス253『世界の現場から 実践SDGs 格差・環境・食糧問題の現実解』
著者
Raj Patel
テキサス大学オースティン校の公共問題の教授で持続可能な食料システムに関する国際専門家委員会のメンバー。著書に『肥満と飢餓』,『値段と価値』(いずれも邦訳は作品社)などがある。最近,パイパー(Zak Piper)と共同で監督を務めたドキュメンタリー映画『The Ants & the Grasshopper』が賞を受賞した。
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「さらばグローバル経済 持続可能な地球を実現する方法」,A. コタリ,日経サイエンス2021年11月号。
原題名
The Power of Agroecology(SCIENTIFIC AMERICAN November 2021)
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アグロエコロジー/小農/間作/持続可能性/食料主権/Soils,Food and Healthy Communities