
私がアン(仮名)に会ったのはドイツ南西部の中規模都市マンハイムにある中央精神衛生研究所(ドイツ名の略称でZI)だった。施設は格子状に区切られた同市中心部の数ブロックにまたがる。アンはここで「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と「境界性パーソナリティ障害(BPD)」の治療を受けている。複雑性PTSDは長期のトラウマを経験した後に深刻な諸症状が繰り返し生じる。BPDは激しく不安定な感情を特徴とするパーソナリティ障害の1つで,自己イメージと人間関係に悪影響を与え,しばしば自傷行為や自殺行動を伴う。
感情の調節困難や自己意識の変化など,BPDと複雑性PTSDはいくつかの特徴が共通している。だが重要な違いは,複雑性PTSDがその症状をトラウマに対する反応と定めているのに対し,BPDはそうでないことだ。多くの患者が両方の障害の基準に合致するが,トラウマがBPDでどの程度の役割を果たしているのかは,専門家の間で激しい議論の的となっている。
著者
Diana Kwon
フリーランスのジャーナリスト。独ベルリンを拠点に健康と生命科学に関する記事を執筆している。
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「脳と心のはざまの病気 機能性神経症状症」,D. クォン,日経サイエンス2021年7月号。
原題名
The Long Shadow of Trauma(SCIENTIFIC AMERICAN January 2022)
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