日経サイエンス  2022年7月号

特集:デマを見破る

拙速な思考は陰謀論に弱い

C. サンチェス(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校) D. ダニング(ミシガン大学)

あなたは大きな決断を下す際,事前にどのくらいの時間をかけて調べるだろうか? 実のところ,多くの人はほとんど時間をかけない。例えば自動車を購入する場合,ほとんどの人はせいぜい2軒のディーラーに足を運ぶだけだ。どの医師にかかるかを選ぶ場合も,多くの人は友人や家族の薦めを参考にするだけで,医療の専門家に相談するとか,健康関連ウェブサイトや良医に関する記事といった情報を参照することはしない。

もっと重大な決断をするのに備えて知的資源を温存しているのかというと,そうでもない。米国人の5人に1人は,自分の将来の経済状況について考えるよりも,次の夏休みをどう過ごすかの計画を立てるのに多くの時間を使っている。

何かを選択するにあたってすべてを事細かく検討する人はいるし,考えすぎに陥るのも確かによくはない。だが,かなりの人は速断で結論に飛びついている。こうした飛躍した考え方は一種の「認知バイアス」であり,特定タイプの知的錯誤につながる傾向がある。この場合の誤りとは,ほとんど根拠がないのに物事を決めてしまうことだ。

私たち著者はこれまでの研究を通じ,人間には間違いにつながりやすい行動・思考様式があり,性急な判断はその一部にすぎないことを見いだした。こうした行動・思考様式は代償を伴う。論理に飛躍がある人は,熟慮することなしに,成功の見込みが薄い選択肢に賭けてしまうことが多い。 また,結論に早く飛びつく人ほど,「アポロ月着陸はでっち上げだ」などといった陰謀論を支持する傾向があり,超常現象や医学神話(例えば「保健当局は携帯電話とがんの関係を知りながら隠している」など)を信じやすかった。さらに,自信過剰に陥るという問題も見られた。

著者

Carmen Sanchez / David Dunning

サンチェスはイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校ビジネススクールの助教。誤信の発達と意思決定,自信過剰を研究している。ダニングは社会心理学者でミシガン大学心理学科の教授。人間の誤信,特に自分自身について抱く誤った思い込みについて研究している。

原題名

Leaps of Confusion(SCIENTIFIC AMERICAN February 2022)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

認知バイアスメタ認知トレーニング