日経サイエンス  2022年6月号

特集:コロナで世界はどう変わったか

遠のく脱格差社会

J. E. スティグリッツ(コロンビア大学)

新型コロナウイルスはグローバル経済システムの脆弱性と不平等を露呈し,さらに悪化させた。米国を含め多くの国は,人工呼吸器はおろか,マスクのような簡単な品さえも生産できないことを証明した。そして多くのサプライチェーンが崩壊した。この苦い体験を受け,今後各国が自国内の生産設備を増やすのはほぼ確実だ。ワクチンを買いだめし,人命よりも利益を優先した国々が見せた醜いナショナリズムは,世界に壊滅的な結果を生じかねないのに,弱まる気配がない。

 

今回のパンデミックがもたらした最も重大な結果は不平等の悪化だろう。米国内の格差と,先進国と途上国の間の格差がともに拡大している。世界の億万長者の富は2020年から2021年の間に4兆4000億ドル増え,同時にその一方で世界で新たに1億人以上が貧困線の下に沈んだ。この状況が今後どこまで悪化するかは,この感染症がいつまで猛威を振るうか,そしてパンデミックとその影響を抑えるために為政者が何をするかにかかっている。

著者

Joseph E. Stiglitz

コロンビア大学教授で,ルーズベルト研究所の首席エコノミスト。2001年にノーベル経済学賞を受賞。1995~97年にクリントン政権の大統領経済諮問委員会の議長,1997~2000年に世界銀行チーフエコノミスト兼上級副総裁。幸福および持続可能性の指標づくりのため,2008~2009年に仏サルコジ大統領の委員会で,また2013~19年に経済協力開発機構(OECD)の専門家グループで,それぞれ議長を務めた。

原題名

Inequality Got Much Worse(SCIENTIFIC AMERICAN March 2022)

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