日経サイエンス  2022年6月号

特集:コロナで世界はどう変わったか

実験室から現場へ 検査を革新したPCR技術

R. カムシ(科学ジャーナリスト)

DNAの特定の配列を複製して増やすポリメラーゼ反応(PCR)のアイデアは約40年前に生まれ,この方法によって患者の体内に病原体が存在するかどうかを調べる装置が開発されてきた。ただ,COVID前にはこうした装置があるのは大規模な検査ラボなどに限られていた。

今回のパンデミックでPCR検査の需要が急激に高まり,検査件数が大幅に増加した。技術開発が進み,診療所や国境検問所などへの小型の迅速検査装置の導入も進んだ。「SARS-CoV-2の大流行で分子検査がスケールアップされたことは不幸中の幸いといえるだろう」と,ウガンダのマケレレ大学健康科学部でマイコバクテリウム学研究ユニットを率いるセンゴーバ(Willy Ssengooba)は言う。

今後さらに検査を増やす必要があると多くの人が口を揃える。2021年後半に急速に広まったオミクロン株の出現で実証されたように,社会セクターのなかでもとりわけ医療システムを大きく圧迫する変異ウイルスを追跡・監視するには,集団レベルの検査を増やすことが不可欠だ。そうしたPCR検査の急拡大はまた,より強力な公衆衛生監視システムへの道を開くだろう。複数の病原体を一度に検査するPCR装置を展開し,大量の検査データを集積して状況を監視することで,将来のパンデミックを見抜けるようになるかもしれない。

続きは日経サイエンス2022年6月号にて
再録:別冊日経サイエンス256『生命科学の最前線 分子医学で病気を制す』

著者

Roxanne Khamsi

加モントリオールを拠点とする科学ジャーナリストで,ラジオ番組にも関わっている。COVIDパンデミックについて幅広く伝えている。

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遺伝子を自動的に複製するPCR法の発見」,K.B.マリス,別冊日経サイエンス246『感染症Ⅱ』収録。

原題名

COVID Set Off a Boom in Diagnostics(SCIENTIFIC AMERICAN March 2022)

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