日経サイエンス  2022年6月号

特集:コロナで世界はどう変わったか

コロナ後遺症が変えた慢性病のとらえ⽅

M. オルーク(Yale Review誌)

パンデミックが始まって2年になるが,コロナ後遺症はいまだにその最大の脅威のひとつであり続けている。初期の推定値によると,国を問わず,ワクチンを接種しないまま感染した人の10~50 %が後遺症を発症していると考えられる。感染してもワクチンを接種していれば後遺症の発症リスクが最大で50%減る可能性があるが,それでもゼロにはならない。

それなのに,デルタ株やオミクロン株の感染拡大時に,公衆衛生の議論がコロナ後遺症に及ぶことはほとんどなかった。保健当局の注目は重篤な急性症状と死亡例に集中し,多数の人を衰弱させて人生を変えてしまうこのウイルスの長期的影響はほとんど無視された。30〜50歳という働き盛りの世代で後遺症に苦しむ人々が多いことに対し,社会として責任ある対策を求める議論もほぼなかった。

発症のメカニズムも含めてコロナ後遺症はまだわからないことだらけなのに,この関心の欠如には本当に驚かされる。ウイルスが炎症の蔓延または自己免疫疾患を誘発すると示唆する説もあれば,ウイルス自体が体内組織に居座るとする説もある。現時点でわかっているのは,疲労感や,頭に霧がかかった感じがする“ブレインフォグ”,動悸,息切れ,痛みといった驚くほど多様な症状を訴えている人が何百万人もいるという事実だ。このような患者をみんな治そうとすると,医学が長らく抱えてきた弱点が顕わになる。

著者

Meghan O’Rourke

Yale Review誌の編集者。Atlantic,New Yorkerその他多くの雑誌にエッセイ,評論,詩を寄稿している。最新の著作は「The Invisible Kingdom: Reimagining Chronic Illness」(Riverhead Books,2022年)。

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原題名

Long Haulers Called Attention to Chronic Illnesses(SCIENTIFIC AMERICAN March 2022)

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