日経サイエンス  2022年6月号

特集:コロナで世界はどう変わったか

ついに始まったmRNA医薬の時代

D. ワイスマン(ペンシルベニア大学)

わずか17年で,mRNA(メッセンジャーRNA)医薬は概念実証の段階から世界を救うものへと発展を遂げた。ファイザー・ビオンテック製およびモデルナ製のCOVID-19ワクチンは,何億人もの人々に投与され,数え切れないほどの命を救っている。


2005年にカリコー(Katalin Karikó)と私は,動物の組織に注入したときに危険な炎症を引き起こさないmRNA分子を作る方法を考案した。2017年にはパルディ(Norbert Pardi)と共に,修飾したmRNAを脂質膜に似たナノ粒子で包んでヒト体内の目的細胞に送達させた。このmRNAは体内で分解されずに免疫系を刺激し,実際の病原体に感染した時よりもずっと効果的に,侵入してきたウイルスを中和する抗体ができることを私たちは実証した。ファイザー製ワクチンとモデルナ製ワクチンはどちらも,このmRNA・脂質ナノ粒子(mRNA-LNPと呼ばれる)をプラットフォームとして採用している。大規模な臨床試験では,ワクチン接種者の90%以上で発症を防いだ。


mRNA医薬の応用先は新型コロナワクチンだけにとどまらない。がんやアレルギーの治療を目指すmRNAワクチンの研究が進んでおり,病気の治療に必要なタンパク質をmRNAの投与によって体内で作る方法も試みられている。mRNA医薬は侵襲性とコストの低い高度な医療を提供し,世界の医療の公平性を大幅に向上させる可能性がある。

著者

Drew Weissman

ペンシルベニア大学教授で,ワクチン研究を手掛けている。彼の研究室が作製したヌクレオシド修飾mRNA・脂質ナノ粒子ワクチンプラットフォームは,ファイザーとモデルナのCOVID-19ワクチンに使われている。ワイスマンは,ヌクレオシド修飾mRNAの特許に関して2社からライセンス料を得ている。

原題名

Messenger RNA Therapies Finally Arrived(SCIENTIFIC AMERICAN March 2022)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

mRNAワクチンmRNA医薬遺伝子治療