日経サイエンス  2022年5月号

強力な温暖化ガス 石油プラントのメタン漏出を見逃すな

A. クチメント(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

メタンは米国が排出する温室効果ガスの約10%にすぎないが,10年以上にわたって熱を閉じ込めるという点で,二酸化炭素よりはるかに強力な温室効果ガスだ。大気中のメタン濃度は2007年以降,上昇し続けている。米海洋大気庁(NOAA)は2021年4月,新型コロナのパンデミックによる景気後退にもかかわらず,2020年のメタン濃度の年間増加量が史上最高の14.7 ppbに達したと報告した。

しかし油田からのメタン排出を止めることは,排出箇所の特定さえできれば比較的容易だ。ジェイコブら専門家は,対策は低コストで利益を生み出すこともできると言う。企業はメタンを焼却処分するのではなく,漏出メタンを含めて回収し,売ればよい。排出減の恩恵は莫大で,即効性がある。「今すぐメタン排出を削減すれば,地球温暖化はすぐに減速する」とハワースは言う。

2021年5月に発表された国連の報告書では,2030年までに人為的なメタンの排出量を45%削減すれば,今世紀中の温度上昇を1.5℃にとどめるというパリ協定の目標が達成できるだろうと結論づけた。この削減により猛暑や干ばつ,洪水,蚊が媒介する病気による被害を低減し,多くの命を救える可能性がある。

パーミアン盆地は油田からのメタン排出を削減するには絶好の場所だといえる。ハーバード大学の研究者らが中心となって実施した2020年4月の調査によると,パーミアン盆地は700万世帯に電力を供給するのに十分なメタンを排出している。

エクソンモービル,パイオニア・ナチュラル・リソーシズ,シェブロンなどはアレンと共同で「プロジェクト・アストラ」という地上での継続監視システムを試験している。システムの目的は「スーパー排出源を発見することだ。発見が早ければ素早く対応できる」とアレンは言う。50〜100個の地上センサーをパーミアン盆地の最大50km2に及ぶ地域に設置する予定で,約100の油井・ガス井をカバーすることになる。狙いは水平坑井などの無人設備で意図せぬ排出が起きている例を見つけることだ。

続きは日経サイエンス2022年5月号をご覧ください。

再録:別冊日経サイエンス262『気候危機と戦う 人類を救うテクノロジー』

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原始地球の気候を支配したメタン菌」,J. F. カスティング,日経サイエンス2004年10月号。

原題名

Methane Hunters(SCIENTIFIC AMERICAN September 2021)

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