
太陽に2番目に近く,サイズと成分の面では地球の双子ともいえる金星に,いったい何が起こって,地球とはかけ離れた,この世の終わりのような状況になったのだろう? この隣り合うよく似た両惑星が,驚くほど異なる道をたどってきたのはなぜなのだろうか?
この四半世紀,世界の惑星科学者の多くがいまだに火星での生命探索に夢中だが,今のところ成果はない。その間ずっと,酸性かつ超高温で乾燥した,おそらく生物のいない不毛の地である金星は脇に追いやられてきた。
転機は2021年6月に訪れた。米航空宇宙局(NASA)は太陽系を探査するディスカバリー計画の新たなミッションとして,2つの金星探査ミッションを選んだ。相補的な関係にある両ミッションは金星の昔の時代のハビタビリティ(生命の居住可能性)の調査を目的としている。
朗報は続いた。NASAの待望の発表からわずか1週間後,欧州宇宙機関(ESA)は科学的に興味深い場所を調べる金星周回探査機がNASAの2機に仲間入りすると発表した。金星探査のルネサンスの始まりだ。
「欧州の研究者から『あかつきが切り拓いてくれた道を我々も進む』とのメッセージをもらった」と,日本の金星探査機「あかつき」のプロジェクトマネージャを務める宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所教授の中村正人は話す。あかつきは金星の気象衛星として稼働しており,金星全域を覆う雲の動きを紫外線と赤外線で詳しく観測,金星大気の謎である「スーパーローテーション」の仕組みを解明するなど成果を上げている。欧米が計画している金星探査を成功に導く上でも,あかつきのデータは重要な役割を果たす。
「あかつき」が解く⾦星⼤気の謎 中島林彦
著者
Robin George Andrews
ロンドンが拠点の火山学者でサイエンスライター。近著は「Super Volcanoes:What They Reveal about Earth and the Worlds Beyond」(W. W. Norton & Co)。
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「第2の地球がたどった道」,S. E. スムレッカーほか,日経サイエンス2019年6月号。
原題名
Lifting the Venus Curse(SCIENTIFIC AMERICAN September 2021)
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