
カレー,麻婆豆腐,タコス,ペペロンチーノ──世界の食文化は,辛みと切っても切れない関係にある。好きこのんで辛いものを食べる動物はヒトだけだ。私たちはなぜ,この危険な味に魅了されるのか。2021年のノーベル生理学・医学賞は,スパイスの刺激を感じるセンサー「TRPV1」の研究が受賞テーマとなった。スパイスの効いた料理を食べることで体に起こる数々の変化が,このTRPV1の機能によって説明できる。近年の考古学研究から,ヒトが1万年も前からトウガラシを生活に取り入れてきたことも判明した。世界各地の1万種類のトウガラシでゲノム解析を行った国際共同研究の結果,国や文化の壁を越えてこのスパイスがどのように世界中に広まったのかが明らかになってきた。
痛みが美味しさに変わるメカニズム 出村政彬
ゲノムが語る食の文化史 出村政彬