日経サイエンス  2022年4月号

数楽実験室マテーマティケー 第4回

距離を考える

図と解説:矢崎成俊

間瀬真知香(ませ・まちか)はいつもより多めにお湯を沸かしている。数楽実験室で飲むルイボスティーのためのお湯だが,今日はルイボスティーを実験にも使うつもりだ。と,廊下から2人でふざけあうような声が聞こえた。
 「おはようございます!」
 高校2年生の何戸家奈留沙(なんとか・なるさ)と,弟の夏太(なつた)が駆け込んできた。
 「おはようございます。いつも仲がいいですね。距離が近いというか」と真知香が言うと,2人は顔を見合わせた。
 「では,今日は距離について考えてみましょう」

 
 
◎測れない距離を測る
 「まず,東京から大阪までの距離は何kmでしょうか」
 真知香はそう言って地図を見せた。
 

 
2人はさっそく,定規で線の長さを測り始めた。
「赤い線の長さは縮尺の線のだいたい3.9倍です」と夏太。
「ほぼ4.0倍だと思います」と奈留沙。
「じゃあ,間を取って3.95倍で」
「つまり東京−大阪間の距離PQは395kmくらいね」
奈留沙の言葉に,真知香はうなずいた。
「いい線ですね。東京都庁と大阪府庁の距離は395.5kmです。地図の縮尺が実際の距離と対応しているので,地図上の長さを測れば実際の距離がわかるわけです」
「はい」
「では,地図上で測れない距離はどうやって測ればよいでしょうか。例えば,今,隅田川にかかる言問橋(P)にいるとして,スカイツリーのてっぺん(Q)までの距離はわかりますか。ちなみに,スカイツリーの高さは634mです」
 

 
「Pからスカイツリーの場所(R)までの距離は,地図からわかるよね」と奈留沙が言い,夏太が測った。
「だいたい845mだ。それなら,えーと……わかった!」
「では夏太くん,説明をどうぞ」と真知香がうながす。
「ピタゴラスの定理を使います。直角三角形では,直角を挟む2辺a,bと斜辺cの間に,c2=a2+b2の関係が成り立ちます」
 

 
そしてスマホの電卓を使って,
 a=845m
 b=634m
 c==1056m
と計算してみせた。
 「素早いですね! では奈留沙さん,このa,b,cのそれぞれの数値を,211で割ってみてくださいますか」
 奈留沙は手際よくスマホをタップする。
 「aが約4,bが3,cが5になります」
 「正解です。実はこの問題を作るとき,スカイツリーの高さを3としたときに約4の距離にある場所をGoogle Earthで探したのです。言問橋の真ん中がちょうどぴったりでした」
 真知香はそう種明かしをした。
 
 
◎マンハッタン距離
 「これまで見てきた距離はいずれも,真っ直ぐな線分の長さのことでした。いわゆる直線距離です。今度は少し変わった距離を見てみましょう」 
  
この続きは2022年4月号誌面でどうぞ。

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