日経サイエンス  2022年4月号

40%がゴミになる 見えない食品ロスを減らせ

C. フリッシュマン M. メーラ(ともにプロジェクト・ドローダウン)

スーパーに行き,レジ袋3つ分の食品を買って帰ったとしよう。自宅に戻って玄関のドアを開ける前に,3つのうち1つの袋をゴミ箱に捨てる。それらは後日,埋め立て処分場行きだ。なんというムダか。

私たちの現在の行いは,まさにこれと同じだ。人間が食べるために世界で生産された食品の30~40%が実際には食べられていない。日常的に飢えている人が世界で8億人を超えていることを考えると,この大量の食品ロスには何ともやりきれない思いがする。

人口増と経済発展が現在のペースで続いた場合,2050年には世界の食物の年間生産量を現在よりも5300万トン増やさねばならない。そのためには,今後30年で4億4200万ヘクタールの森林や草地(インドを上回る面積だ)を農地に転換する必要があるだろう。この拡大はまた,今後30年で800億トンの二酸化炭素(CO2)に相当する温室効果ガスの排出増をもたらす。米国の2019年の排出量の約15倍だ。食品廃棄はすでに,世界の温室効果ガス排出の約8%を生じている。

だが,別の道がある。国際的な研究・連絡組織「プロジェクト・ドローダウン」で活動する私たちのチームは,既存の技術と活動によって再生的な社会と経済を作り出すとともに大気中の温室効果ガスをかなり削減する方策を徹底的に研究した。この目的を達成する方法として検討した76の手法のうち,食品廃棄の削減は最重要のトップ5に入るものだ。

食品をどのように生産し消費するかという基本を調整することで,現在と同面積の農地によって全世界にもっと健康的で栄養に富む食事を2050年以降も供給する道が開け,新たに土地を開墾して農地を増やす必要はなくなる。廃棄をなくしてより多くの食品を供給することは,その食品を生産する手法の改善とともに,森林破壊の回避と,膨大な量のエネルギーや水,肥料,労働力など資源の節約につながるだろう。

続き2022年4月号で)
再録:別冊日経サイエンス253『世界の現場から 実践SDGs 格差・環境・食糧問題の現実解』

著者

/ Mamta Mehra

フリッシュマンは気候変動問題の解決に取り組む非営利の国際研究団体プロジェクト・ドローダウンの研究者で「ドローダウン・ソリューションズ・フレームワーク」を率いている。メーラはプロジェクト・ドローダウンで土地利用・食品部門のシニアフェローを務めている。

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地球温暖化対策の誤算 植物バイオマスが足りない」,E. テーンスマイヤー/D. ギャリティ,日経サイエンス2021年2月号。

原題名

More Food, Less Waste(SCIENTIFIC AMERICAN October 2021)

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