日経サイエンス  2022年4月号

新たな物理の糸口になるか ミューオンg-2実験

M. カレーナ(米国立フェルミ加速器研究所)

2021年4月,米国立フェルミ加速器研究所が「ミューオンg-2実験」の最初の解析結果を発表した。ミュー粒子の振る舞いが素粒子物理学の「標準モデル」の予測からずれていることを示すものだった。

 

「ミューオンg-2実験」は2001年に実施された実験の後継実験。2001年の実験では理論予測からのズレを示す興味深い手がかりをつかんだものの,それを決定づけるだけの十分なデータは得ていなかった。そして今回,2001年の実験結果と一致する新たな証拠が提示されたのだ。これら2つの実験で得られた証拠は,物理学の世界で「発見」を主張するのに求められる厳格な統計学的基準にかなり近づいている。

 

観測されているズレが本物なら,素粒子物理学においてヒッグス粒子の発見以来の最大のブレークスルーになるだろう。このズレは正体がわかっていない暗黒物質粒子や,自然界の新たな力を担う未知の粒子の影響によるものかもしれない。

著者

Marcela Carena

素粒子物理学者。米国立フェルミ加速器研究所(イリノイ州バタビア)理論 部門の部門長で,シカゴ大学で物理学の教授を務めている。同大ではエンリ コ・フェルミ研究所とカブリ宇宙物理学研究所に所属。

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未知の素粒子が存在か?」,D. ガリスト,日経サイエンス2021年7月号。

原題名

The Unseen Universe(SCIENTIFIC AMERICAN October 2021)

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