日経サイエンス  2022年4月号

特集:コロナワクチン3回目接種

ワクチンが効かない人たち 免疫弱者をコロナから守る

T. ルイス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 メリーランド州西部に住む67歳のフランクリン(George Frankline III)は,腎臓移植を受けて最も長く生き続けている米国人のひとりだ。彼が移植手術で命を救われたのは46年前のこと。おかげで健康で活動的な生活が可能になり,水泳やボウリング,友人宅への訪問を楽しみ,さらには世界移植者スポーツ大会として知られる競技会にも出場した。だが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まって以降,それら活動のすべてが不可能になっている。 

 

 フランクリンは大半の移植患者と同様,体が移植臓器を拒絶するのを防ぐために免疫系を抑制する薬を服用しなければならない。彼はジョンソン・エンド・ジョンソンのコロナワクチンの接種を昨年3月に受けたが,検出できるだけの抗体は生じなかった。「抗体ができない私のような人は,ワクチンを打たなかったのと同然だ」という(彼の場合,昨年11月にモデルナ製ワクチンの接種を受けてようやく抗体ができた)。 

 

 こうした事情で感染に脆弱になっている人々は数多くいる。202110月にCOVIDの合併症で亡くなった元国務長官のパウエル(Colin Powell)もそうだった。彼はワクチン接種を受けていたが,多発性骨髄腫を患っていた。多発性骨髄腫は感染と戦う白血球が冒される血液がんで,その治療には免疫系をさらに抑制する薬が使われることが多い。 

 

 パンデミックはすべての人に通常の生活を制限することを強いた。しかし「免疫不全」の人の場合は,そのように制限された活動でさえ並外れたリスクを伴う。がんやHIV感染症,自己免疫疾患などの病気によって免疫系が弱まっている人や,ステロイドや抗がん剤,移植臓器の拒絶を防ぐ薬などによって免疫が低下している人がこれにあたる。 

 

 免疫不全の人々はCOVIDによって入院あるいは死亡する率が高く,ワクチンを接種しても強い保護効果が生じにくいことが研究から示されている。だが,希望の持てる材料もある。ワクチンの追加接種や,免疫抑制剤治療のタイミングを戦略的に調節すること,そしてCOVIDの予防的な治療によって,免疫不全でも一部の人々では保護効果を高めることができそうだ。パンデミックで失われた自由を少なくとも部分的に回復できるだろう。 
 
(続きは2022年4月号で)

原題名

Vaccinated but Vulnerable(SCIENTIFIC AMERICAN February 2022)

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