日経サイエンス  2022年4月号

特集:スーパーフレア

巨木の年輪に刻まれた太陽の異変 古文書が助けた科学解析

中島林彦(編集部) 協力:三宅芙沙/早川尚志(ともに名古屋大学宇宙地球環境研究所)

屋久島の霧に包まれた山奥には樹齢1000年を超える「屋久杉」が数多く自生している。約10年前,その巨木の切り株から採取した770年代半ばの年輪の分析から奇妙な事実が判明した。その年輪には,大気圏内での核爆発実験が盛んに行われていた20世紀半ばの年輪に見られるような放射性炭素の急増が認められたのだ。770年代といえば奈良時代なので自然現象によって生じたはずだが,年輪にこうした痕跡を残すような現象は知られていなかった。

一方,770年代半ば,世界各地で天変が見られたことがわかってきた。当時のメソポタミア北部では「血の色の光線」や「緑の光線」が何度か目撃され,当時のイングランドでは「キリストの赤いしるし」が天に浮かび上がった。中国の唐の都,長安では,たゆたう絹の布のような「白気」が夜空に広がった。古文書などの歴史文献に見られるこれら天変の記述は,普段,極域にしか現れないオーロラが緯度の低い地域で目撃されたことを物語ったものであると考えられている。

現在,770年代半ばの年輪に刻まれた異変は,近代に入ってからは1回も観測されたことがない超巨大な太陽嵐によってもたらされたものであることが明らかになっている。歴史文献に記されたオーロラと考えられる天変は,その太陽嵐に由来するものではないが,その前後の数年にわたって太陽の磁気的な活動が非常に活発だったことを示唆している。年輪や歴史文献などを手がかりに,古代メソポタミアの時代まで時を遡って超巨大な太陽嵐を探索する研究の最前線を紹介する。

協力:三宅芙沙/早川尚志
三宅は名古屋大学宇宙地球環境研究所の准教授。早川は同研究所の特任助教。三宅は太陽からの高エネルギー粒子で生じた炭素14などを手がかりに,早川は歴史文献や古い時代の観測記録などから,超巨大な太陽嵐に迫る研究に取り組んでいる。画面奥に見える屋久杉の切り株の輪切りサンプルから775年と993年の炭素14スパイクが見いだされた。

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

キャリントン・イベント太陽フレア宇宙嵐磁気嵐炭素14スパイク年輪スーパーフレア三宅イベントコロナ質量放出屋久杉銀河宇宙線ズークニーン年代記低緯度オーロラアングロサクソン年代記旧唐書高麗史続日本紀白気白虹アッシリア占星術レポートバビロン天文日誌鳥海神代杉