日経サイエンス  2022年4月号

トンガの海底火山噴火 津波はなぜ起きた?

小玉祥司(日本経済新聞)

2022年1月15日,南太平洋のポリネシアにあるトンガ諸島で起きた海底火山フンガトンガ・フンガハーパイの噴火は,世界各地に予想外のスピードで津波を引き起こした。

トンガ王国は,オーストラリア東岸から約3300km東,南太平洋の真ん中に位置する170余りの島々からなる。太平洋プレートがオーストラリアプレートの下に沈み込んでいる場所にあり,日本と同様に火山噴火や地震が多い地域として知られる。今回の噴火は2021年12月から始まり,いったん活動が低下したが,その後再び活発化。1月13日に噴火したのに続き,日本時間の15日午後1時ごろに大噴火を起こした。

噴火の後,世界各地に津波が到達した。ただ地震によって起きる通常の津波に比べるとはるかに到達時間が早く,当局の発表にも混乱が見られた。

気象庁は15日午後7時ごろにいったん「若干の海面変動が予想されるが,被害の心配はない」と発表したが,鹿児島県奄美大島で1.2mの潮位変化が観測された後の16日未明になって津波警報を発令した。記者会見では「通常の津波とは異なり,メカニズムはわからない」としたうえで,津波ではないかもしれないが被害を避けるために津波警報を出したと説明した。

ほかにも予想外な点が見られた。通常の津波は陸地が間にあればそこで阻まれるが,今回はトンガとの間に陸地を挟んだカリブ海などでも潮位の変化が見られた。またトンガと日本の中間に位置する太平洋の島々ではわずかな潮位変化しか観測されなかったのに対して,トンガから遠く離れた日本や南米のチリ沿岸などでは1mを超える潮位変化が観測された。

なぜこうした現象が起きたのか。今回の津波が予想以上に早く世界各地に到達したのは,噴火地点で起きた海面の変動が海を伝わっていったのではなく,噴火によって発生した衝撃波によって発生した大気の圧力の振動により引き起こされたためではないかと研究者の多くはみている。



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著者

小玉祥司

日本経済新聞編集委員。1985年京都大学理学部卒業,日本経済新聞社に入社。エレクトロニクス・IT産業などを取材した後,科学技術担当。宇宙物理学や宇宙開発,地球物理学を主に取材している。東京工業大学などの非常勤講師も務めた。

鈴木雄治郎(すずき・ゆうじろう)/綿田辰吾(わただ・しんご)
ともに東京大学地震研究所准教授。鈴木は火山噴火,とくに噴煙のダイナミクスを大規模計算によって再現する研究に取り組んでいる。綿田は地球に日常的に起きている地殻変動や重力変動,大気波動などの現象を,理論と観測の両面から包括的に解明することを目指している。

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