
宇宙の観測技術が発達して初めて,夜空の暗闇の中から姿を現すようになった天体がある。波長が長すぎて人間には見えない赤外線でかすかに光る褐色矮星だ。
大半の恒星は,水素が融合してヘリウムになる核融合反応をエネルギー源としている。これは驚くほど安定したプロセスで,恒星は数十億年もの間,一定の温度と光度で燃え続ける。これに対し,温度や圧力が核融合反応を維持できるレベルに達しなかったものは褐色矮星になる。その質量は最大で太陽の質量の8%,木星の質量の80倍ほどだ。
褐色矮星は恒星と同じくらいありふれた天体で,太陽系のかなり近くにも褐色矮星が存在する。3番目と4番目に近い天体がそうで,それぞれ6.5光年と7.3光年の距離にある。
私が大学院生だった2000年代初頭,褐色矮星は発見されてまだ間もない時代で,たくさんの興味深い謎があった。分類上は恒星と惑星の境界域に位置する,この不可思議な球体に私は心を奪われた。褐色矮星はどこでいかにして形成され,どのような姿をしているのだろうか。研究するうちに褐色矮星はそれ自体が興味深いだけでなく,惑星と恒星の中間にあたる温度と質量を持っていて,両者の理解を橋渡しする重要な存在であることを知った。
現在,私たち褐色矮星の研究者は恵まれた状況にある。発見を待っている褐色矮星はまだたくさんあるうえ,これまでの研究の蓄積をもとに,褐色矮星における物理プロセスを解き明かすことができるからだ。例えば褐色矮星の大気や風,自転速度などを調べる技術的ツールがついに手に入り,褐色矮星が惑星を持っているかどうかも探れるようになった。
著者
Katelyn Allers
低質量星と褐色矮星を研究する天文学者。最近までバックネル大学の教授を務めていた。現在はノースウェスト・レジスタード・エージェントでデジタルトレーニングの教材を制作している。
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「褐色矮星の意外な正体」,G.バスリ,日経サイエンス2000年7月号。
原題名
Not Quite Stars(SCIENTIFIC AMERICAN August 2021)
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褐色矮星/テイデ1/グリーゼ229B/Y型褐色矮星/2MASS/Oph98 AB/WISE 0855/PSO J318.5-22