日経サイエンス  2022年3月号

自己免疫疾患

女性に多い理由 腸内細菌,ホルモン,X染色体が影響

M. W. モイヤー(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)

ノースカロライナ州チャペルヒルに住むシー(Melanie See)に奇妙な症状が初めて出たのは2005年のことだった。突然,大量の汗をかくようになり,体重が10ポンド(約4.5kg)も減少した。寝室から居間のソファまで移動するだけでめまいがした。赤ちゃんを産んだわけでもないのに乳汁が出た。当時45歳だったシーは様々な臨床検査を受け,バセドウ病と診断された。甲状腺ホルモンが過剰に作られる自己免疫疾患だ。

3年後,バセドウ病の症状は薬で抑えられていたが,シーの健康状態は再び急激に悪化した。体重がさらに減り,激しい疲労感に襲われた。今度はセリアック病と診断された。これも自己免疫疾患の1つで,患者はグルテンを含む食物を食べると症状が出る。さらに2015年には,激しい消化器症状と筋肉痛が出始めた。このときは医師たちが頭を抱えた。「最初の診断はあれもこれもという感じ。血管炎,全身性エリテマトーデス,……全部は覚えきれなかった」とシーは言う。様々な検査を経て下された診断は混合性結合組織病だった。これも自己免疫疾患で,特徴が全身性エリテマトーデスと一部重なる珍しい病気だ。

自己免疫疾患にはシーが診断されたもののほかに全身性エリテマトーデスや多発性硬化症,関節リウマチなどがあり,いずれも人体の免疫系が体内の細胞や組織を誤って攻撃することで引き起こされる。患者のおよそ78%が女性で,自己免疫疾患は現在,65歳未満の女性の死因の第5位となっている。

なぜ女性が男性よりもはるかに自己免疫になりやすいのかは長い間謎だったが,絞り込まれつつある。性ホルモンの影響,女性の2本めのX染色体の影響,そして性別によって発達が異なる腸内細菌叢の影響だ。



再録:別冊日経サイエンス260『新版 性とジェンダー』
再録:別冊日経サイエンス256『生命科学の最前線 分子医学で病気を制す』

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見過ごされてきた医学上の性差」,M. L. ステファニク,日経サイエンス2018年1月号。

原題名

Women at Risk(SCIENTIFIC AMERICAN September 2021)

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自己免疫疾患X染色体の不活性化