
ドイツの免疫学者エールリヒ(Paul Ehrlich)にとって,外来の病原体から身を守るために進化した免疫系がその生物自身を攻撃するという考えはナンセンスに思えた。後にノーベル生理学・医学賞を受賞するこの免疫学者は1901年,それを不自然だとして切り捨てた(「自己中毒忌避説」と呼ばれる)。
だが現在,患者と医師は自己免疫疾患が紛れもない現実であることを知っている。およそ80の自己免疫疾患が知られ,世界で非常に多くの人々が苦しんでいる。その種類と数は圧倒的だ。
自己免疫疾患には,自己抗体(その生物自身の組織に破壊目標の印をつける免疫系タンパク質)と,攻撃の実行部隊となるT細胞とB細胞が関わっている。分子生物学の技術が進んでこれらの免疫細胞とタンパク質を追跡することが可能になり,自己免疫疾患をより正確にとらえられるようになった。
だが,自己免疫疾患の概要はエールリヒの時代に比べて明確になったものの,個々の疾患の詳細についてはいまだに議論が残っている例もある。オーストラリア国立大学ジョン・カーティン医学研究院で個別化免疫学センターの所長を務めているクック(Matthew C. Cook)は,病状に関連するような自己抗体が常に検出されるわけではないのに,T細胞を調節する薬がうまく効く病気があると指摘する。皮膚病の乾癬が一例で,乾癬は自己免疫疾患とされるのが普通だ。
次に掲げたリストは既知の自己免疫疾患のほとんどを含んでいるが,この分野の科学的理解はいまもなお進展中だ。有病率のほか,典型的な発症年齢,男女でかかりやすさに差があるかどうか(ほとんどは女性のほうが多い)などを示した。
著者
サイエンスライター
ニューヨークを拠点に活動するサイエンスライター,ポッドキャスター。
原題名
Autoimmune Disease, by the Numbers(SCIENTIFIC AMERICAN September 2021)