
あの朝のことは,今でもよく覚えている。私はジムに行く支度をしていた。新品のスポーツウエアを身につけて玄関を出ようとしたとき,私は両足の太ももに激しく焼けるような感覚を覚えた。両足が見る見るうちに赤い大きな発疹に覆われ,私はウエアを脱ぎ捨てた。絶対に何かついていたに違いない! そしてシャワーに駆け込んだ。ほどなくして,発疹はおさまった。おそらくアレルギー反応だろう。私はウエアを速攻で返品し,これで終わったと思っていた。
だが,体の方はそうは思っていなかったようだ。翌朝,発疹は再び出現した。今度は発疹がおさまらず,それどころか広がっていった。数日のうちに,私の体は触れたものすべてに反応して激しい炎症を起こすようになった。体内で何か恐ろしい連鎖反応が始まってしまったようで,もはや何をしても元の状態に戻すことができなかった。
急いで病院に行った後,たくさんの検査が続いたが,原因は見つからなかった。私は内科や皮膚科,アレルギー科,免疫科の間でたらい回しになった。私には理解不能な多くの専門用語によって,可能性のある疾患が次々と除外されていった。
答えが見つからないまま,発疹は広がり続けた。首,顔,両目は腫れて塞がった。経口ステロイドの服用量はどんどん増え,多数の抗ヒスタミン剤のせいで,目を開けていられないくらい眠くなった。ステロイドの塗り薬はどんどん強力なものになった。私は体重が増え,眠りすぎるかまったく眠れないかのどちらかになった。ほんのわずかな時間さえ,まともに考えることができなかった。私の免疫系は完膚なきまでに打ちのめされた。それでも発疹の原因はわからなかった。
著者
Maria Konnikova
科学ジャーナリストでプロのポーカープレーヤー。著書に『ポーカーで証明した正しい意思決定―知識ゼロからメジャー大会優勝の軌跡』(2021年),『The Confidence Game 信頼と説得の心理学』(2019年),『シャーロック・ホームズの思考術』(2016年)がある。
原題名
Betrayal from Within(SCIENTIFIC AMERICAN September 2021)
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自己免疫疾患/肥満細胞症/慢性炎症性脱髄性多発神経炎/CIDP/ステロイド/特発性