日経サイエンス  2022年3月号

特集:自己免疫疾患

反逆する体

J. フィッシュマン(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

友人ジョンの妹アニーは,11歳のときに病気になった。当時,私もたいして違わない年齢だったので,全身性エリテマトーデスという彼女の病気がどれほど大変なのかはよくわからなかった。それは自身の免疫細胞が体を攻撃する病気で,腎臓や肺がやられてしまう。アニーの顔が膨らんでいるのはステロイドという薬を大量に飲んでいるためだとジョンから聞いた。だがステロイドには副作用があり,私やジョンならすぐに回復するインフルエンザや風邪が,アニーには大きな問題になった。アニーは何度も学校を長期欠席し,病気はしばしば悪化した。大人になるとアニーは大好きなこども劇場の仕事につき,地方議会でも働いた。だが病気が治ることはなく,49歳で亡くなった。

自己免疫疾患の物語は,しばしばこんなふうに終わってしまう。全身性エリテマトーデスは自己免疫疾患の1つで,体の防御を担う免疫系が自身を裏切って,本来守るべき臓器を破壊する。自己免疫疾患は80種類もある(もっと多いとの説もある)。米国立衛生研究所によると米国には2500万人の患者がいて,その数はますます増えている。自己免疫疾患は1型糖尿病や全身性エリテマトーデスのようなよく聞く病気から,全身の大動脈に炎症が生じる高安動脈炎のようなまれな病気まで多岐にわたる。

本特集では,犠牲者が多い割に顧みられることの少なかったこれらの病気についての新たな発見に焦点を当てる。自己免疫疾患の発症プロセスについては,医学界の長年の定説を覆す新たな見方が提唱されている。また患者の8割が女性という著しい不均衡を説明する理論も構築されつつある。こうした研究の進展が免疫系についての詳しい理解をもたらし,治療法の進歩につながるだろう。進歩のスピードは速くない。だがこうした変化は,効果の薄い治療や薬ばかりという,病気そのものよりもっと悪いこれまでの状況を,大きく変える可能性を秘めている。

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