日経サイエンス  2022年2月号

動物は本気で遊ぶ

C. オコンネル(ハーバード大学)

サバンナの低木地帯で野生のゾウの群れが水場でたわむれる様子を観察していると,あることに気がつく。それは,子ゾウの成長を促し,群れの中の上下関係を維持する上で,「遊び」が重要な役割を果たしているということだ。遊びの中には説明のつかない行動も多いが,私はそれらをきっかけに,動物はどのように遊ぶのか,また遊ぶという行動がゾウだけでなくヒトを含む全ての社会的動物にどんな利点をもたらすのかをもっと解明したいと考えた。

遊びは暇なときにする行動と思われがちだ。狩りや交尾をしたり,捕食者から逃げたりといった生きていく上で必須となるスキルの学習とは別物だと考えられることが多い。しかし,遊ぶ者やそれを周りで見ている者は楽しんでいるだけのつもりでも,実は遊びの行動は成長してから必要になるサバイバルのスキルが儀式化したものであり,これらをしっかりと身につける機会となっている。

さらに,ゾウの長期観察をするうちに,私は分断された家族の関係が子ゾウたちの遊びによって修復されていく様子を目の当たりにした。遊びには数え切れないほどの効能がある。大いに遊び騒ぐということは一見何の意味も持たないように思うかもしれないが,そこから時に予想もしない効果が得られることを,ゾウたちは教えてくれる。

著者

Caitlin O’Connell

ハーバード大学医学部の行動生態学者でゾウの行動とコミュニケーションを研究している。最近の著書に「Wild Rituals: 10 Lessons Animals Can Teach Us about Connection, Community, and Ourselves」(クロニクル・プリズム,2021年)がある。

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闘争の動物行動学」,G. アーノット/ R. W. エルウッド,日経サイエンス 2019 年11 月号。

原題名

Why Animals Play(SCIENTIFIC AMERICAN August 2021)

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