日経サイエンス  2022年2月号

特集:宇宙観測と量子技術

量子が開く地球サイズの光学望遠鏡

A. アナンサスワーミー(科学ジャーナリスト)

数年前,イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)を使って宇宙を電波で探っているチームが,他の天文学者にはいまだに夢のような驚くべき観測をやってのけた。地球上で遠く離れた場所にある8つの望遠鏡の観測データを結合することで,近傍の銀河にある超大質量ブラックホールの影の撮影に成功したと発表したのだ。「干渉法」というこの技法によって,イベント・ホライズン・テレスコープは実質的に地球サイズの望遠鏡に相当する分解能(天空の光源を見分ける能力)を達成した。

これに対し,ハッブル宇宙望遠鏡など多くの装置によるお馴染みの素晴らしい画像の撮影に使われている可視光波長については,現在の干渉計が結合できるのは最大でも数百m離れた望遠鏡からの光がせいぜいだ。

だが,その状況が変わることになるかもしれない。天文学者は量子物理学者の協力を得て,数十kmさらには数百km離れた光学望遠鏡をつなぐ試みに挑み始めている。そうした光学干渉計は量子通信分野で進みつつある技術革新に頼ることになる。

特に重要なのは,それぞれの望遠鏡でとらえた光子の微妙な量子状態を保存する記憶装置の開発だ。「量子ハードドライブ(QHD)」と呼ばれるこの装置を物理的に輸送して1カ所に集め,そこで各望遠鏡からのデータを引き出してほかと結合し,遠方の天体の詳しい姿を明らかにする。

著者

Anil Ananthaswamy

科学ジャーナリスト。著書に『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』(紀伊國屋書店),『二重スリット実験 量子世界の実在に、どこまで迫れるか』(白揚社)がある。

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光干渉計で星の素顔を探る」,A. R. ハジアン/J. T. アームストロング,日経サイエンス2001年6月号。

原題名

Quantum Astronomy Could Create Telescopes Hundreds of Kilometers Wide(scientificamerican.com on April 19, 2021)

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