日経サイエンス  2022年2月号

特集:アルツハイマー病の意外な引き金

血液脳関門の破れがもたらす認知症

D. カウファー(カリフォルニア大学バークレー校) A. フリードマン(加ダルハウジー大学)

脳内の血管には特殊な細胞が密着結合してできた“壁”があり「血液脳関門」と呼ばれている。壁といっても機能的にはフィルターに近く,血液中の酸素や重要な栄養素を脳細胞に到達させる一方,神経細胞を傷つける恐れのある病原体や特定の血中タンパク質をブロックしている。

この血液脳関門がストレスや加齢によって損傷して正常に機能しなくなることが著者らの研究によって明らかになった。その結果,血中タンパク質「アルブミン」が脳に侵入し,炎症や異常な神経活動,認知機能障害など,老化や病気に関連するよく知られた変化を誘発しているという。

また,アルブミンが引き起こす炎症から脳細胞を守る薬を投与したり,脳細胞が炎症分子を放出できないように遺伝子を組み換えたりすると,高齢のマウスの老化した脳が若い脳のように機能し始めるようだ。

血液脳関門の損傷がアルツハイマー病などの脳疾患の真の原因であるかどうかはまだわからないが,追究するに値する仮説だ。

著者

Daniela Kaufer / Alon Friedman

カウファーはカリフォルニア大学バークレー校の統合生物学科の教授。同校のヘレン・ウィルス神経科学研究所の研究者であり,生物科学分野のアソシエイト・ディーンを務める。

フリードマンは加ノバスコシア州にあるダルハウジー大学医学神経科学科の教授で,てんかん研究におけるウィリアム・デニス記念教授。また,イスラエルのネゲブ・ベン=グリオン大学認知脳科学科の教授と同大学の神経学におけるヘレナ・ラフマンスカ=プッツマン記念教授を兼任。

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特集:アルツハイマー病 発病の謎を解く新たな視点」,K. S. コシク,日経サイエンス2020年11月号。

原題名

Holes in the Shield(SCIENTIFIC AMERICAN May 2021)

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