日経サイエンス  2022年1月号

数楽実験室 マテーマティケー 第1回

斜めに見る

矢崎 成俊(明治大学)

実験の準備を終え,間瀬真知香(ませ・まちか)はルイボスティーを淹れて一息ついた。新しく借りた部屋はまだ物が少なく,お茶を飲む音が響く。そろそろアシスタントの子が来るはずだ。真知香は気を引き締めた。ノックの音がした。

「おはようございます。アシスタントの何戸家夏太(なんとか・なつた)です」

「おはようございます。間瀬真知香です。今日は来てくれてどうもありがとう」

真知香は夏太を招き入れた。そして,自分はフリーの実験数楽者で,各地で「数楽実験室」という移動教室を開いていること,これから科学雑誌で毎月連載をすることになったので,そのための実験室を開き,数学の話題をひとつずつ取り上げていきたいと思っていることを説明した。

「わかりました。ぼくは数学はちょっとアレですが,実験は好きです。どうぞよろしくお願いします」と夏太は言った。 「ところで,マテーマティケーって何ですか」
 真知香は微笑んだ。

「夏太くん,数学を英語で何というか知っていますか」

「マセマティックスです」

「マセマティックスの語源を探ると『マンタネイン=学ぶ』という意味の昔のギリシャ語に行き着きます。そこから派生してマテーマティケーという言葉が生まれ,現在のマセマティックスという言葉になりました。数学者は英語ではマセマティシャンといいますが,これはもともとマテーマティコス,数学が好きな人という意味です。つまり『学ぶことが好きな人』ですね。だから勉強が楽しい人はみんな数学者」

「だから『数楽』なのですね。じゃあ音楽と一緒だ」

「そうですね。それに『実際に試して考える』という意味の『実験』を加えて数楽実験室です。数楽実験室の目的は,日常の暮らしの中で,ほんのちょっと見方や考え方を変えるだけで楽しくなるような話を一緒に体感することです。普段見ている風景が少し違って見えたら楽しいでしょう?」

「はい。今日の『斜めに見る』というのは何でしょうか?」

「早速来ましたね。では,本題に入りましょう。外に出て散歩しながら話しましょうか」



続きは現在発売中の2022年1月号誌面でどうぞ。

著者

矢崎成俊(やざき・しげとし)

明治大学理工学部数学科教授。2000年東京大学大学院博士課程修了。博士(数理科学)。手を動かすことで数学の概念を実感する「実験数学」の活動で知られる。著書に『実験数学読本』シリーズ①〜③(日本評論社)などがある。

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