
テキストメッセージの「送信」をタップしたら,そのメッセージは自分のスマホから友人のスマホに直接送られると思われるかもしれない。実は,メッセージは通常セルラーネットワークやインターネットをはるばる伝わって受信者のもとに届いている。どちらのネットワークも集中型インフラに頼っており,自然災害や圧制的な政府の方針で切断されることもある。技術に精通した香港のデモ参加者たちは,政府による監視や干渉を恐れてインターネットの使用を避け,近距離にあるスマホ間で直接メッセージをやり取りするFireChatやBridgefyといったアプリを使っていた。
こうしたアプリは,メッセージをスマホからスマホへとひそかにリレーしながら,最終的に送信者と受信者をつなぐ。もちろん,メッセージを閲覧できるのは送信者と受信者だけだ。つながり合ったスマホの集まりはメッシュネットワークやモバイルアドホックネットワークと呼ばれ,柔軟な分散型の通信方式となる。しかし,任意の2台のスマホが通信するには,それらが他の一連のスマホによってリンクされている必要がある。香港を横断する通信を保証するには,街に散らばる人の何人が同じメッシュネットワークによってつながっている必要があるだろうか?
「パーコレーション(浸透)理論」と呼ばれる数学・物理学の一分野が驚くべき答えを提供する。わずか数人の違いで状況が一変しうるのだ。ユーザーが加わると,最初のうちは互いにつながったスマホの小さなクラスターができるだけだ。だが,ユーザー密度がある明確なしきい値を超えると,途端に街を完全に縦断,あるいは横断する通信網ができあがるという。
著者
Kelsey Houston-Edwards
数学者でジャーナリスト。公共放送サービス(PBS)のネット配信番組PBS Infinite Series を制作したことがある。
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「数学は発明か発見か」,K. ヒューストン=エドワーズ,日経サイエンス2019年12月号
原題名
The Math of Making Connections(SCIENTIFIC AMERICAN April 2021)