日経サイエンス  2021年12月号

特集:新型コロナ 次の治療薬は

多様な変異ウイルスに効く抗体

出村政彬(編集部)

新型コロナウイルス感染症は,流行当初に比べて患者の治療に使用できる薬の種類が増えてきた。国内でも,ウイルスに直接くっついて活動を封じる中和抗体薬が今夏より本格的に使用され始めている。効果の高い中和抗体薬が実現した背景には,2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)終息後も続けられたコロナウイルスの研究がある。そして現在,新型コロナの新たな変異ウイルス出現を見据え,幅広い変異に対応できる中和抗体薬の研究開発が進んでいる。

現在国内で使われている新型コロナの治療薬は大きく3タイプに分けられる。1つ目はウイルスに直接作用して増殖を抑える「抗ウイルス薬」。2020年5月,国内で最初に特例承認を受けた「ベクルリー(一般名レムデシビル)」はこのタイプにあたる。2つ目は免疫抑制剤だ。人体に備わる免疫系がうまくウイルスに対処できず暴走を始めると,全身のあちこちで炎症が起きて重症化する。免疫抑制剤はこうした免疫系の暴走にブレーキをかける役目を果たす。そして,3つ目が前述の中和抗体薬だ。免疫系はウイルスを攻撃するためにタンパク質でできた武器「抗体」を生産する。中和抗体薬は,回復した患者の血液などから性能の優れた抗体を選び出し,その抗体を動物細胞を用いて大量に生産し,精製した薬だ。

7月に特例承認された「ロナプリーブ」(一般名カシリビマブ/イムデビマブ)に続いて,9月27日には2つ目の中和抗体薬である「ゼビュディ」(ソトロビマブ)が特例承認された。ゼビュディとロナプリーブはどちらもスパイクと呼ばれるウイルス表面の突起部分を標的にしており,対象となる患者の条件も同じだ。しかし,もともとこの2つは開発の経緯がまったく異なる薬だった。ロナプリーブは新型コロナの感染者で見つかった抗体だが,ゼビュディで使われている抗体は,実は2002〜2003年に流行したSARSの感染者から得られたものだ。イタリアの国立分子遺伝学研究所の免疫学者,ランツァベッキア(Antonio Lanzavecchia)らがSARSの終息後も将来のコロナウイルスのパンデミックを見据えて続けてきた抗体医薬の研究が基になっている。

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