
2021年のノーベル生理学・医学賞は,温度受容体および触覚受容体を発見した功績で,米カリフォルニア大学サンフランシスコ校のジュリアス(David Julius)と,米スクリプス研究所のパタプティアン(Ardem Patapoutian)の2氏に授与される。人間は様々な感覚を通じて自分の周囲にある環境を把握しており,体には目や耳などのセンサーが備わっている。しかし,物体の温度や肌触り,自分の体の姿勢,さらには痛みといった感覚は一体どんなセンサーでとらえているのか。視覚や聴覚の仕組みが20世紀の前半から精力的に研究されてきたのに比べ,その仕組みは長らく謎に包まれていた。
ジュリアスは1997年に,温度受容体TRPV1を発見した。この発見に大きく貢献したのが,現・生理学研究所教授の富永真琴だ。富永は当時神経と生理機能の関連を研究する電気生理学が専門で,1996年に渡米しジュリアスの研究室に4年間在籍した。ジュリアス研では当時トウガラシの辛み成分であるカプサイシンの受容体を探す研究を進めており,富永も途中からチームに参加。1万6000個のDNAのセットの中から正解の受容体を特定した。
こうしてカプサイシンの刺激に反応する痛みの受容体として見つかったTRPV1だったが,ある日のミーティングでジュリアスは「トウガラシを食べると熱く感じる。TRPV1は熱にも反応するのでは」と話した。ジュリアスの考えは大胆だったが,実験をしてみるとTRPV1はカプサイシンがなくても43℃以上の熱で反応した。「体温を上回る温度で痛みを起こすTRPV1の機能は,ヒトが危険を回避するうえでとても理にかなっている」(富永)。辛さと熱さは英語だとどちらも同じ“hot”だが,感じ方の仕組みも同じだったことになる。
また,パタプティアンは2010年,皮膚や臓器に与えられる機械的な刺激を検知する受容体,Piezo1及びPiezo2を発見した。私たちは日々,常に体の各部にかかる機械的な刺激を感じながら生活している。物体の硬さや手触りを確認し,空気を吸ったときの肺の膨らみを感じ,膀胱に尿がたまったことを検知する。センサーの役目を果たすPiezoは,全身の皮膚や臓器に張り巡らされた感覚神経細胞の末端で働くことがわかった。
サイト内の関連記事を読む
キーワードをGoogleで検索する
温度受容体/ TRPファミリー/ 温度生物学/ 触覚受容体/ Piezo