
米プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎らのノーベル物理学賞決定をめぐり,久しく物理学賞の対象でなかった地球科学分野から選ばれたこと,とりわけ地球温暖化研究が授賞の対象になったことがクローズアップされている。あるいは,真鍋が切り開いた気候シミュレーションという計算科学の研究分野にスポットが当たったという見方もできるかもしれない。
だが授賞理由に「For Groundbreaking Contribution to Our Understanding of Complex Physical Systems」とあるように,今年の物理学賞のキーワードは「複雑系」だ。共同受賞のハッセルマン(Klaus Hasselmann)の業績も気候という複雑な系を真鍋とは別の視点から解き明かす試みだった。
今回ノーベル委員会は地球温暖化問題に言及し「(受賞者は)無秩序やノイズ,変動への説明抜きでは,予測が単なる幻想にすぎないことを示した」とし「それらの起源を探ってこそ,地球温暖化がリアルなものとなり我々の行動に正統性が与えられる」と述べている。
真鍋らにノーベル賞が与えられるのは,長年の数値モデルの研究を通じ気候の予測可能性を示したことで,複雑系を「手なずける」ことに成功したという評価なのだろう。真鍋は気候システムを単純化した1次元モデルを皮切りに,地球全体をシミュレーションする気候モデルを開発。温暖化研究の先駆けとなった。ドイツのハッセルマンは,複雑系である気候の将来予測が可能であることを示すとともに,地球温暖化への人間活動の寄与度を計算する手法を開発した。
数百年後は“ジュラシック・パーク”(再録) 語り:真鍋淑郎
弊誌は1997年8月号で地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長を務めることになる真鍋氏に研究のポイントと将来展望を聞いている。そのインタビュー記事を再掲。
著者
吉川和輝(よしかわ・かずき) / 協力:野沢 徹(のざわ・とおる)
吉川は日本経済新聞社編集委員。1982年入社,産業部,ソウル支局などを経て科学技術部記者に。米マサチューセッツ工科大学で科学ジャーナリズムを学んだ。2012~2015年に日経サイエンスの発行人を務めた。現在はエマージングテクノロジー,物理学,デジタル社会,科学技術政策などのテーマで執筆している。
野沢は岡山大学教授。気象学や気候学,大気物理学が専門で,長年にわたり気候モデル研究に取り組んできた。
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