日経サイエンス  2021年11月号

特集:mRNAワクチン

がんや難病 新たな治療戦略

古田彩(編集部)

 mRNAワクチンは新型コロナウイルス感染症との戦い方を一変しただけでなく,「mRNA医薬」という医薬品の新たなジャンルを開いた。

 mRNA(メッセンジャー RNA)とはDNAがタンパク質を作る過程で生じる中間生成物で,目的のタンパク質を作るのに必要な遺伝情報が書き込まれている。mRNA医薬は人工的に作ったmRNAを人体に投与し,体内でタンパク質を作らせることで病気を治療する。仕組みとしては患者にDNAを投与してタンパク質を作らせる遺伝子治療に近いが,mRNAは患者のDNAに挿入される危険がなく,体内で速やかに分解されるため安全性が高い。

 

 mRNA医薬の研究は1990年代に始まり,2010年ごろからがんや感染症に対するワクチンなどの臨床試験が始まった。2020年に新型コロナのパンデミックが起きると独ビオンテックと米ファイザー,米モデルナがいち早くm RNAワクチンの実用化にこぎつけ,初のmRNA医薬となった。

 新型コロナのmRNAワクチンは,世界中で数億人に接種された。今後は鳥インフルエンザやサイトメガロウイルス感染症といった他の感染症に対するワクチンのほか,がんや遺伝子疾患を治療するmRNA医薬の開発が加速するとみられる。




再録:別冊日経サイエンス250「『病』のサイエンス」

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