
今年4月,米イリノイ州にある米国立フェルミ加速器研究所は,ミュー粒子の磁気的な性質の大きさが,現在の素粒子物理学の基本である標準モデルの予測からずれていることを観測したと発表した。
標準モデルは宇宙を形作る素粒子や力を驚くほどうまく説明するが,不完全でもある。重力を説明していないし,暗黒物質や暗黒エネルギー,ニュートリノの質量についても語らない。研究者たちは,実験結果が理論予測と合わない“ズレ”を探すことで,標準モデルを超え,これらの現象を説明できる新たな物理学を追求している。
今回のフェルミ研究所の実験結果は15年前に米国立ブルックヘブン研究所で初めて示唆されたズレを再現し,標準モデルにはない未知の素粒子が存在するとの期待が高まっている。だが,このズレが偶然ではなく,確実に存在すると断定するには至っていない。現在,茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCで独立に実験し,フェルミ研の結果を検証する準備が進んでいる。最終決着までには,しばらく時間がかかりそうだ。
著者
Daniel Garisto
物理と自然科学全般をカバーする科学ジャーナリスト。Nature News,Science Newsなどに寄稿している。
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「ミュー粒子に表れた矛盾」中島林彦,日経サイエンス2014年4月号
原題名
Long-Awaited Muon Measurement Boosts Evidence for New Physics(scientificamerican.com on April 7, 2021)
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