日経サイエンス  2021年7月号

フロントランナー挑む 第114回

「接ぎ木」のスペシャリスト食料問題の解決目指す:野田口理孝

滝順一(日本経済新聞編集委員)

同じ科に属する植物同士でないと不可能と考えられてきた「接ぎ木」
別の科の植物ともくっつく
“接ぎ木の万能植物”を見つけ,常識を覆した
新品種の開発などを通じて食料問題の解決に貢献しようとしている

植物は動物のような脳神経系を持たないが,根や葉,花などの器官はそれぞれ一個の生き物として調和的に発達し生存への機能を果たす。名古屋大学生物機能開発利用研究センター准教授の野田口理孝は,古来の「接ぎ木」という手法で植物内の情報伝達のメカニズム解明に挑む。その道のりの中で,接ぎ木の常識を覆す発見があった。(文中敬称略)

 「今や世界の耕作地の約4割がストレス土壌であると言われる。私たちの食がリスクに直面している。2000年以上の歴史がある接ぎ木の手法で,この大課題の解決に貢献したい」と,野田口は話す。

乾燥や塩害,表土流出などで農業生産に適さなくなった土壌をストレス土壌と呼ぶ。安定的な食料生産へのリスクばかりでなく生態系の保全のためにも健康な土壌の回復が求められ,乾燥や塩害に強い新品種を開発する動きが世界各地で進んでいる。(続く)




再録:別冊日経サイエンス248『科学を仕事にするということ 未来を拓く30人』

野田口理孝(のたぐち・みちたか)
名古屋大学准教授。1980年東京生まれ。2003年北海道大学理学部卒業。2009年京都大学大学院博士課程修了。同年から米カリフォルニア大学で研究員。2012年から2015年まで名古屋大学大学院理学研究科研究員,科学技術振興機構(JST)のERATO東山ライブホロニクスプロジェクト研究員。名古屋大大学院生命農学研究科助教,JSTさきがけ研究員などを経て2019年6月から現職。

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