
ブラックホールは最後には蒸発して消える。ブラックホールに入った物質は二度と外に出られないことを考えると,物質が持つ情報はブラックホールの蒸発とともに失われることになるが,これは,いかなる場合でも情報は失われないという物理学の基本原理と矛盾する。
このブラックホールの情報パラドックスを解消する様々なアイデアが提案されてきたが,問題の解決に役立つ直接的な証拠はこれまでほとんどなかった。しかし,イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)によるブラックホールの画像によって,理論研究の指針となるデータが得られ始めている。今後のEHTによる観測,特にブラックホールの時間発展を明らかにする観測と,重力波天文台によるブラックホールどうしの衝突の観測が重要な知見をもたらしてくれるだろう。
著者
Steven B. Giddings
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の量子物理学者。高エネルギー理論と重力の量子的側面,量子ブラックホールを中心に研究している。
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「時空の終端 ファイアウォール」,J. ポルチンスキー,日経サイエンス2015年7月号。
原題名
Escape from a Black Hole(SCIENTIFIC AMERICAN December 2019)
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ブラックホール/情報パラドックス/ホーキング放射/イベント・ホライズン・テレスコープ/重力波/局所性の原理