
光さえ抜け出られないブラックホール。この奇妙な天体は時間とともに小さくなり最後には蒸発してしまう。そうなると中に入った物質の情報は失われるように思える。これは,いかなる場合でも情報は失われないという量子力学の基本原理と矛盾するのではないか。この「ブラックホールの情報パラドックス」は,時空と重力を説明する一般相対性理論と,ミクロ世界の物質の振る舞いを説明する量子力学を統合する量子重力理論が完成していないことから生じた難問だ。近年ブラックホールの観測技術が進展し,現在提唱されているパラドックス解決のアイデアを検証する道が開けてきた。また量子重力理論と,量子コンピューターの基礎となる量子情報理論を結び付けた有力な仮説が提唱され,注目を集めている。
S. B. ギディングス
中島林彦 協力:大栗博司/高柳 匡